REPORT
レポート
第5試合
WBOアジアパシフィックスーパーライト級タイトルマッチ 12R
平岡アンディ(大橋)(勝者)
ジュン・ミンホ(韓国)
セミファイナルにはWBOアジアパシフィックスーパーライト級王者でデビュー以来22連勝と無敗の快進撃を続ける平岡アンディ(大橋)がリングイン。WBCアジアウェルター級シルバー王者のジュン・ミンホ(韓国)を挑戦者に迎え、5度目の王座防衛戦に挑んだ。
その肩書通りミンホはウェルター級で闘っているボクサーで、現在は2連勝中。身長は182センチのアンディの方が6センチ高いが、前日計量ではボディビルダー並みに筋肉の鎧をまとったミンホの体付きが話題になった。来年世界王座挑戦を見据える平岡にとっては一階級上の王者とのマッチメークは試練ともいえる一戦だった。

第1ラウンドは静かな立ち上がり。リング中央でボディを中心にやり合う中、平岡は長いリーチを活かしてジャブや右のボディストレートで試合の流れを掴む。
その後も平岡ペースで試合は進んだ。セコンドに就いた父のジャスティス・トレーナーからGOサインが出たのは8Rだった。痛烈な左アッパーをクリーンヒットさせると、ミンホは数秒間時間を置いてからダウン。なんとか立ち上がってきたミンホに平岡はとどめの左フックを打ち込み一階級上の王者というハードルをクリアするとともに王座防衛に成功した。会心のKO勝ちに平岡は「自分から組み立てるスタイルで、相手が疲れてきたらKOしたいという気持ちで戦った。狙っていた通りのフィニッシュ」と笑顔で語った。

19年秋、平岡は井上尚弥と同じトップランク社と契約。ボクシングの本場ラスベガスで2試合連続KO勝ちと実績を残している。世界挑戦は目前という矢先にコロナ禍に見舞われ、それから海外への遠征試合は実現していない。それでも今年は国内で4度も王座防衛戦を重ねるとともに、これで8戦連続KO勝ちとなった。平岡は吠える。
「井上尚弥選手と一緒に仲間として練習してきて自分もモチベーション上がっているので、早く海外で試合をしたい。(来年)3月か4月にやれたら」
現在、IBF世界同級では9位にランクイン。世界はもう見えている。
第4試合
OPBF東洋太平洋スーパーバンタム級タイトルマッチ 12R
武居由樹(大橋)(勝者)
ブルーノ・タリモ(オーストラリア)
K-1からボクシングに転向後、5戦全勝(5KO)と無敗の快進撃を続ける武居由樹(大橋)が8月26日に奪取した東洋太平洋スーパーバンタム級王座の初防衛戦に臨んだ。
挑戦者は同級14位で、IBF世界ランキングにも名を連ねる(7位)ブルーノ・タリモ。オーストラリア国籍のタンザニア人だ。
武居にとって今回の防衛戦は試練の一戦といわれていた。身長で5センチ、リーチで8センチもアドバンテージがあったが、タリモは典型的なズングリムックリ型のパワーファイター。これまでのキャリアの中で武居はこの手のタイプとの対戦経験がなかったのだ。
試合順は第4試合。いつも通りQUEENのI WAS BORN TO LOVE YOUに乗って入場してくると、まだ17時過ぎだというのにすでに超満員の観客で埋まった有明アリーナの観客席からは武居への期待値を示すかのように大きな歓声が湧き起こった。
ある程度予想されていたことだが、第1ラウンドからタリモは強いプレスをかけ、距離をどんどん縮めてきた。それに対して武居は右のジャブや左ストレートを打っては離れるヒットアンドアウェイ戦法に出た。
そうした矢先にバッティングによって武居の左目上がカット。うっすらながら流血を余儀なくされてしまう。武居を応援する者からすれば「ヤバい」という流れだっただけに、このときばかりは観客席も静まった。
しかし、やはりこの男は何かを持っている。その直後、右フックで先制のダウンを奪い、リングに立ち込め始めた暗雲を吹き飛ばしたのだ。KOは時間の問題と思われたが、ここからが本当の試練だった。

その後、タリモは愚直なまでに突っ込んでくる。カウンターの左でこのオーストラリアンをグラつかせる場面もあったが、致命的なダメージを与えるまでには至らない。
タリモが突っ込めば、それを武居がサバく。ふたりの関係はまるで闘牛と闘牛士のそれだった。7R、武居の攻撃でタリモは右目上をカットする。第4Rと第8Rが終わった時点でオープンスコアでジャッジは3者とも武居を支持していたが、倒せるムードではなかった。このまま初めての判定で王座防衛かという雰囲気の中で始まった第11R、バッティングによってタリモの傷口はさらに開き大流血。ドクターチェックの結果、試合続行不可能と見なされ、武居のTKO勝ちがコールされた。
初防衛に成功したにもにもかかわらず、武居に笑顔はなかった。「タリモ選手すごく気持ちも身体も強くて、すごいファイターだった。はじめて11Rやらせていただいたし、来年もっと強くなって出直します」
苦戦したとはいえ、連続KO記録は6に伸びた。初めての11ラウンドの長丁場も大きな経験にもなったはず。これからどこまで強くなるのか。
第3試合
55.5キロ契約 10R
井上拓真(大橋)(勝者)
ジェイク・ボルネア(フィリピン)
第3試合には井上尚弥の実弟で元WBC世界バンタム級暫定王者の井上拓真(大橋)が登場し、元WBFインターコンチネンタルSフライ級王者のジェイク・ボルネア(フィリピン)と55.5キロ契約10回戦を争った。井上はノンタイトル戦となった今回の国際戦のテーマを「圧倒」と定義する。
「圧倒的な強さを見せつけ、圧倒的に勝つ」
果たして第1ラウンドから井上はワンツーを武器に快調に飛ばす。
「オーッ!」
踏み込んでの鋭い左、あるいはアゴを打ち砕く左アッパー。このラウンドだけで観客席から何度どよめきが起こったことか。

第2Rになると、井上はボルネアのボディに集中砲火。3R、ボルネアは復調仕掛けたが、井上はラウンド終了間際にカウンターの右をヒットさせ、試合の主導権を渡さない。続く4R、井上は左ストレートでボルネオのガードをこじ開け、右をぶち込んだ。
試合の流れは井上の方にどんどん傾いていく。第5R、井上の有効打によって、ボルネアは左目上部をカット。続く第6R、手負いのフィリピーノは大振りのフックで挽回しようとするが、振りが大きければ大きいほど井上の思うツボだった。対照的に井上の方は精度の高い攻撃でピッチを上げていくばかり。ステップを踏みながら、ワンツーでボルネオをさらに追い込む。
第8R、井上が左目下を切り裂くと、ボルネオは大流血。ドクターチェックのあと試合は続行されたが、もう一度ドクターの診断を受けると、試合を止められた。ヒーローインタビューで井上は「こんなに疲れるのは想定外だった」と切り出した。「でも、内容的に圧倒的できたKO勝ち。反省点も多いけど、結果オーライで」
公約通り「圧倒的な」勝利を飾った井上。出番を待つ兄・尚弥に勝利のバトンを渡した。
第2試合
58キロ契約 8R
清水聡(大橋)(勝者)
ランディ・クリス・レオン(フィリピン)
第2試合には早くも現役チャンピオンが登場した。東洋太平洋フェザー級王者の清水聡(大橋)。ロンドン・オリンピックではミドル級で金メダルを獲得した村田諒太より1日早くバンタム級の銅メダリストとなり、日本代表として44年ぶりに表彰台に上がっている。そんな清水と拳を交わしたのはランディ・クリス・レオン。母国のフェザー級8位に名を連ねるフィリピーノとの国際戦は、清水にとって世界前哨戦と位置づけられていた。
現在清水は36歳。以前と比べると選手寿命は長くなったとはいえ、ボクサーとして残された時間は少ない。しかも今回は昨年5月以来、1年7カ月ぶりの復帰戦だった。来年の世界挑戦を決めるためには、ノンタイトル戦ながらレオンをキッチリと仕留める必要があった。
前日計量で暗雲が立ち込めた。レオンが契約体重を600グラムもオーバー。結局当日計量のリミットである60.5キロをクリアしたことで試合は成立した。とはいえ世界を見据えキッチリとコンディションを整えてきた清水の敵でなかった。第1ラウンドからワンツーを主体に試合を組み立てリズムを掴む。
対照的にレオンの攻撃で目立ったものといえば、1R終了のゴングが鳴った直後に仕掛けた攻撃のみ。第2Rになると、清水は懐に入ってボディブローを放つなど、レオンをサンドバック状態にするのに時間はかからなかった。試合のクライマックスはレオンをロープ際まで追い詰めた刹那、痛烈な右アッパーを決め相手のマウスピースが宙を待った場面だろうか。

そして第3Rが始まろうとした矢先、レフェリーは腕を交差させ試合終了を告げた。レオン陣営から棄権の申し出があったのだ。リング上でマイクを向けられた清水は「もうちょっとやりかった」と残念がったが、久しぶりの勝利に笑顔も見せた。
「今日は2ラウンドだったから、アマ(チュア)時代を思い出しました」
さらに長いインターバルを経たことについては「普段から厳しい練習を続けていたが、試合間隔は空きすぎたらダメ。世界戦も組めない中でも腐らずにやっていこうという精神でやっていた」と打ち明けた。2023年は念願の世界王座挑戦のチャンスが巡ってくるか。
第1試合
スーパーバンタム級 8R
三宅寛典(ビッグアーム)
ピーター・マクレール(イギリス)
平日15時にスタートしたビッグイベントは、三宅寛典(ビッグアーム)とピーター・マクレール(イギリス)のスーパーバンタム級8回戦で幕を開けた。
三宅は2015年度、西部日本スーパーバンタム級新人王。のちに世界で二階級を制する亀田和穀や日本バンタム級王者となる澤田京介とも拳を交わしている″雑草魂″だ。
一方、マクレールはサッカーのプレミアリーグで有名なリバプール出身の26歳。東京オリンピックで実施されたボクシングのイギリス代表で、プロ転向後は5戦全勝(4KO)と無敗の快進撃を続けている。
案の定、第1ラウンドからマクレールはプレッシャーをかけてきた三宅に体を上下に揺らしながらワンツーを返し、左フックでボディをえぐる。三宅がクリンチしようとすると、プッシュして突き放す。ラウンド終了間際、左ストレートをクリーンヒットさせると、三宅は大きくグラついた。
続く2R、マクレールは右ストレートで先制のダウンを奪う。すでに鼻っ柱を赤く染めた三宅は必死に反撃を試みようとするが、さらに左のカウンターを被弾。最後は強引に詰めようとするが、ここでマクレールは狙い済ましたカウンターの一打を決め、2R2分ジャストでTKO勝ちを収めた。これで6戦全勝(5KO)。この勢いでリバプールの風となるのか。

著者プロフィール
- 布施 鋼治(ふせ こうじ)
- 1963年7月25日、札幌市出身。学生時代から執筆をスタート。得意分野は格闘技。Numberでは'90年代半ばからSCORE CARDを連載中。共同通信、北海道新聞でもコラムを執筆中。2021年はレスリングでアジア選手権や世界選手権取材のため、コロナ禍の中海外へ。二度に渡りバブル生活も体験。地上波のワイドショーでコメンテーターを務めた。ボクシングでは、以前頻繁に訪れていたロシアでアマチュアボクシングを取材する機会に恵まれている。2008年7月に上梓した「吉田沙保里 119連勝の方程式」(新潮社)でミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞。【twiter】