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中嶋がTKO勝利でアジア2階級王者に。世界へ一歩前進

中嶋一輝 VS ケニー・デメシリョ

第8試合
WBOアジアパシフィックスーパーバンタム級王座決定戦12回戦

WBOアジアパシフィックスーパーバンタム級1位
中嶋一輝(大橋)(勝者)

WBOアジアパシフィックスーパーバンタム級3位
ケニー・デメシリョ(フィリピン)

中嶋にとっての分岐点は2021年10月の栗橋(一力)との一戦だろう。OPBF東洋太平洋バンタム級王座決定戦で王座陥落、そしてキャリア初の黒星をつけた。しかしこの敗戦が中嶋をより強くした。階級を一つ上げ、パワー頼りのKO狙いから技巧を身につけ戦術をシフトチェンジ。昨年は3戦3KOと、再び日本、アジアランキングの最前線に躍り出た。狙うは世界の頂。そして今回迎えるアジア王座決定戦。対するは初来日のフィリピンからの刺客ケニー・デメシリョ。レコードでは中嶋がケニーを上回るだけにKO連勝に期待がかかる。ただし、中嶋は課題も抱えている。前戦では8RにTKOの大逆転劇を見せつけたが、2度のダウンを喫していた。その反省からどのように試合の立て直しをはかるのかに、注目が集まる。アジア王者に再び輝き、世界ランキング入りを果たしたい。

中嶋一輝 VS ケニー・デメシリョ

1Rは静かな立ち上がりとなった。スタンスを広く取り、腰を落として打って構えるのはサウスポーの中嶋。オーソドックスのケニーは、サウスポー対策のセオリーとは逆に、右回りに足を運びながらポジショニングの取り合い、パーリングで距離の制し合いを見せた。ケニーは時折、大きくステップインをしながらボディストレートを放つ。

重心をやや後ろにとり、タイミングをはかって打つ中嶋のストレートがヒット。互いにフェイントをかけつつ出方を探る緊張漂う展開が続く。ケニーはボディに手数を集めつつ、3Rに入ると懐に入ると見せかけてからのオーバーフックを見せた。中嶋に届くものの決定打とはならず。

小刻みなフェイントの掛け合いは続くが、中嶋が少しずつ前進を強める。ストレートからボディ、再びストレートの強打。コーナーにケニーを追い詰める中嶋にセコンドから「力まない」の声が飛ぶ。呼応するように中嶋は体を少し揺さぶり、動きを柔らかくした。ストレート、ボディを打ち込むと、ケニーは上体を曲げるが、中嶋は攻撃に強弱をつけ深追いはしない。4Rの終わりのゴングで、中嶋は少し微笑んでケニーに両手でタッチをした。

中嶋一輝 VS ケニー・デメシリョ

大振りのケニーの動きを読み始めたか。5Rに入ると中嶋は狙い定めたストレートを何度も見舞って削っていく。しかしケニーも大振りながら突進してオーバーフック、ボディ。5R終盤には猛攻が中嶋にヒットして動きを止める場面も。しかし、徐々にケニーに疲れた様子が出始めた。中嶋はケニーにロープを背負わせ、ストレート、ボディの強打を一発ずつ見舞っていく。ケニー凌ぎながらも時々大振りで応戦。中嶋にヒットする場面を作る。しかし、中嶋の冷静さは一糸乱れることはなかった。8Rにはケニーの疲れはさらに色濃くなった。中嶋はストレート、ボディを連打で浴びせ、防戦一方となったところでレフェリーがケニーのスタンディングダウンをとる。再開するものの、展開は変わらず。ケニー陣営のタオル投入により、試合が止められた。8R2分45秒、中嶋のTKO勝利。中嶋はWBOアジアパシフィックスーパーバンタム級王座に就き、アジア2階級制覇を成した。

試合を終えた中嶋は「みんなのおかげでチャンピオンになることができました。世界まで頑張ります。バンタムの時より減量が楽なんで、動きも普通に動けます」と応えた。

中嶋一輝 VS ケニー・デメシリョ

「きれいに倒したかったのですが、相手もうまくて。なかなかきれいに倒すのが難しかったです」と試合を振り返り、「前回より冷静に戦えたかなと思います」と今回の課題を上げた。そして最後に「これで世界ランクも入ると思うので、このまま負けずに世界チャンピオンになりたいと思います」と抱負を語った。

井上浩樹、2年7ヶ月ぶりの復帰戦を左カウンターでTKO勝利

第7試合
日本スーパーバンタム級王座決定10回戦

元WBOアジアパシフィック、日本スーパーライト級
井上浩樹(大橋)(勝者)

パコーン・アイエムヨッド(タイ)

「やるからには世界チャンピオン」。井上は目標を問われると即答した。井上尚弥の従兄弟でもある井上は幼少期からファミリーでボクシングをはじめたサラブレッドボクサー。デビューから無敗で日本スーパーライト級、WBOアジアスーパーライト級を奪取。しかし、永田大士(三迫)との一戦に敗れ王座陥落、翌日に引退を発表した。月日を経て、再びボクシングへの情熱が蘇り復帰を決意。対するは4戦4勝4KOの戦績ながら、その実力が未知数のパコーン・アイエムヨッド。ボクシングIQの高さを併せ持つ井上の完全復帰に期待がかかる。

井上浩樹 VS パコーン・アイエムヨッド

リングに立つと井上の体格はパコーンのひと回り以上も勝って見えた。立ち上がりの井上は慎重だった。軽いジャブを数発放つ。しかし、様子を見たのは数十秒ほど。ブランクの心配は強烈なジャブでパコーンを突き話した瞬間に消えた。ジャブ、ボディ、ノーモーションのストレート、すべてヒット。パコーンもなんとか距離を詰めたいが、大振りに真っ直ぐに入るしか策はない。井上はしっかりと対処。ジャブをついてから左ボディ。パコーンの両手が下がる。同じコンビネーションから再び左ボディを叩き込むと、たまらずパコーンがダウン。立ち上がりゴングに救われる。

2R。攻撃が井上まで全く届かず、ガムシャラにぶん回してくるパコーン。井上は冷静に距離をとって隙を打ち抜き、パコーンをロープまでつめた。反撃で前進するパコーンにコンビネーションからの左カウンター。パコーンは突っ伏すように倒れる。必死に立ち上がろうと仰向けになるが立ち上がれず、2R、38秒、レフェリーが試合を止め、井上は復帰戦をTKO勝利で飾った。

安堵した表情の井上の第一声は「ただいまって感じですね」。ブランクについては「徐々に思い出してきましたね、アップしている時とかこんな感じだったなって。最後の試合は無観客試合だったので、こうしてお客さんが来てくれたのは嬉しいです」と客席に目線を送った。客席からも「おかえり」「おめでとう」の歓声が上がる。

井上浩樹 VS パコーン・アイエムヨッド

「引退前より確実に強くなっているので。今日の試合ではわからないと思いますが」と話しつつ、放送席にいた細川バレンタインの名前を挙げて「バレンさんは、僕のことを嫌いでボロクソ言っているので、なにクソ根性でがんばれた。優しい愛のある言葉だと思うので」と言うと、放送席にいた細川は立ち上がり「一回ぐらいダウン取られて欲しかった。本当におめでとう」と皮肉を混ぜつつも復帰戦勝利を祝う言葉を送った。

第6試合
エキシビションマッチ

日本ミニマム級2位
高田勇仁(ライオンズ)

元日本ミニマム級王者
石澤開(M.T)

当初予定していた日本ミニマム級王座決定戦は、小浦翼(カシアス)が4kgオーバーと体調不良により病院搬送されたため、高田勇仁と石澤開の2分×2Rのエキシビジョンマッチに変更。

前日計量の会場に姿を見せなかった小浦に対し、高田は計量をパス。試合が行われないことに対して高田は小浦を責める言葉を口にせず、今回のエキシビジョンマッチを引き受けた元日本ミニマム級王者・石澤への感謝の言葉を口にしていた。

試合ではないため、同階級であっても体格差ではひとまわり大きい石澤は序盤から力強いコンビネーション、ボディで仕掛ける。高田は持ち味のスピードを駆使し、スリッピング、軽やかなステップワークで攻撃を交わしていく。近距離戦では石澤の強打が上回るが、切れ味ある動きは高田だ。

高田のステップの素早さは時間を追うごとに増していった。井上尚弥が前戦で見せて話題にもなった、相手に合わせてバックステップで誘い込む演出もみせ、観客を喜ばせた。ゴングがなり、両者の手が上げられると、高田は笑顔を見せた。悲願の日本タイトル挑戦が流れてしまい、本人が一番悔しいであろうが、リングを降りるまで高田は笑顔を絶やすことはなかった。

高田勇仁 VS 石澤開

第5試合
56.5kg契約8回戦

日本フェザー級10位
日野僚(川崎新田)

日本スーパーバンタム級17位
池側純(角海老宝石)(勝者)

予測不能のサウスポー対決が実現した。日野は日本タイトル戦に二度挑戦するが勝利は飾れず、休養期間を経て再びリングに戻ってきた。変則のスタイルから繰り出されるストレートが持ち味。一方の池側は昨年10月に好カードと呼ばれた石井渡士也(REBOOT.IBA)との一戦をドロー判定で決着をつけることができなかった。ここで勝利して駒を進めたい両者。

試合開始。リング中央で長い手を生かして相手の目線にリーチを伸ばす日野。通常は違う階級で戦う両者だが、今回はキャッチウェイトでの対戦であるだけに、日野はこの体格差をどう生かすのか。リーチ差では劣っている池側は相手の懐に入るリスクをどう埋めるのか。

緩急をつけたコンビネーションで、日野の独特のリズムを崩そうとしたのは池側。日野は手を伸ばしながらプレスをかけて射程距離を保つ。池側は右に回りながら距離をとって、日野の左のガードが下がったところへ左の打ち下ろしを狙う。

3R。日野の右ジャブ、左ボディストレートに合わせて左フック、打ち下ろしを合わせる池側。コンビネーションの中にアッパーも組み込む。日野はリズムを崩され始めたのか、追い足がもつれスリップする場面も。

日野僚 VS 池側純

前半からの様相が変わりつつあった。池側が中央を陣取り、逆にやや強引に突進するのは日野。池側が距離を制し始め、頭の位置をずらしながら日野のジャブ、コンビネーションを交わしていく。

5R。池側は日野のパターンを完全に把握し始めたのか、入り際に頭を低くして、タイミングをコントロールしヒット数を増やす。前手を突き出し、日野にロープを背負わせボディを混ぜたコンビネーション。日野は攻めあぐねている印象。

6R、開始早々に池側が左目の上をカット。激しい出血が見られレフェリーが試合をストップした。これは偶然のバッティングによるものであるため、6Rまでの採点で判定を下す。採点は58-57、59-56、60-55の三者共に池側を支持。池側が判定勝ちをおさめた。

第4試合
58.0kg契約4回戦

山川健太(大橋)(勝者)
3戦3勝(3KO)

春島一雅(折尾)
デビュー戦

2021年に高校総体優勝、昨年7月のプロデビュー戦で勝利した山川。大橋ジムの期待を背負い、今年の新人王最有力候補の呼び声が高い。春島は今回がデビュー戦。一方の山川は新人王タイトル戦の前に負けるわけにはいかない。

山川のジャブが冴え渡った。スピードある的確なジャブを放ち、春島の顔面を何度も突き上げた。反撃を読み、打ち終わりにバックステップを徹底するため被弾しない。春山は的を変えようと姿勢を低くして翻弄しようと誘うが、山川は動じない。

山川健太 VS 春島一雅

2Rになると山川のプレスはより強くなる。攻撃にミスショットがなく、絶対的な距離感と圧倒的な精度の高さが伺える。春島もなんとか応戦。打ち終わりを狙うもが、すでにその時にはそのポジションに山川はいないため、捉えることはできない。山川の静かで、そして着実に距離を詰めるプレスで、春島はコーナーとロープを交互に背負い、逃げ場を失ったところにコンビネーションを叩き込まれる。蓄積していくダメージを拭おうとする春島だったが、山川の右ストレートの強打で足から崩れ落ちた。すぐさまレフェリーが試合を止める。2R、2分51秒。山川が圧倒的な実力差を見せつけTKO勝利。

第3試合
フェザー級4回戦

内田勇心(大橋)(勝者)

橋場大樹(宮田)

新人王戦でも準々決勝で敗れた橋場と、そして昨年ついに負け越した内田の背水の陣対決。

互いに慎重な立ち上がりとなった。前手で相手を誘いながら射程圏を見据えたポジショニングで有利に見せているのは橋場。身長は8センチ差と上回る内田だが、徐々に距離をつかみ始めたのは橋場か。
2Rに入り、内田の前進に橋場がサイドに回り込み、コンビネーションからの左ストレートでダウンを奪取。しかし、内田も負けじと近距離戦に持ち込み、左ストレートですぐにダウンを取り返す。即座に立ち上がった橋場は内田に猛攻したところでゴング。
3Rに入ってもお互いにダメージからフラフラになりながら、橋場が左ストレートで内田からヒットを奪えば、内田のショートフックで橋場をフラつかせる。両者、いつ倒れてもおかしくないシーンの連続に会場は盛り上がる。
最終ラウンドに入って猛攻撃を仕掛けたのは内田だった。必死に応戦する橋場だったがダメージが色濃く残り、橋場のセコンドからタオルが投げられた。4R、53秒、レフェリーストップによって内田がTKO勝利。

内田勇心 VS 橋場大樹

第2試合
53.0kg契約4回戦

阿部一力(大橋)
デビュー戦

名和祐輔(岐阜ヨコゼキ)
デビュー戦

現役高校生、阿部のデビュー戦。ボクシング歴は12年のキャリアを誇り、数々のアマチュアタイトルをつかんできた。待望のプロデビュー戦を白星で飾れるか。対するは研修医という異色の経歴を持つ32歳の名和。対照的な両者が拳を交える。

阿部一力 VS 名和祐輔

ゴングが鳴ると、阿部は早々に高速のワンツー、フックを見舞った。被弾した音が会場に響き渡り、その豪腕ぶりに客席からどよめきが起こる。必死にガードを固める名和。しかし、すぐに動きを読み切った阿部は、ストレートからスピードあるコンビネーションで名和の動きを止めた。さらにガードを固める名和だったが、反撃でもバランスを崩して上体が浮き、ヒットには及ばず。阿部が間髪入れずに名和をコーナーに追いつめ、連打を浴びせたところでレフェリーが試合をストップ。1R、2分58秒、阿部はデビュー戦TKO勝利とプロ街道を白星スタートで切った。

第1試合
ライトフライ級4回戦

武久尚矢(大橋)
デビュー戦

タジュイ・タム(パンチアウト)

30代とは思えぬハードトレーニングで遅咲きを狙う武久のデビュー戦。相手はアニメ好きから来日し、日本でボクシングを続けるベトナム出身のタジュイ。「左フックで倒したい」と宣言していたように、序盤から左を基軸に展開を作ったのはタジュイだった。武久は多少動きが硬い印象。タジュイは、1Rの終わりにボディを叩き込んで武久の動きを止めた。
2R。武久はボディの対応ができていないのか、タジュイの左右のボディを何度ももらってしまう。ガードを上げて前進する武久も、時折ガードの隙を突いてタジュイの顎を浮かせる。最終ラウンドまで互いに一歩も下がらぬ打撃戦を繰り広げた。採点は1-0(37—39, 38-38×2者)のドロー判定となった。

武久尚矢 VS タジュイ・タム

著者プロフィール

たかはし 藍(たかはし あい)
元初代シュートボクシング日本女子フライ級王者。出版社で漫画や実用書、健康書などさまざまな編集経験を持つ。スポーツ関連の記事執筆やアスリートに適した食事・ライフスタイルの指導、講演、一般向けの格闘技レッスン等の活動も行う。逆境を乗り越えようとする者の姿にめっぽう弱い。
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