REPORT レポート

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第7試合
OPBF東洋太平洋スーパーバンタム級タイトルマッチ12回戦

ペテ・アポリナル(フィリピン)

武居由樹(大橋)(勝者)

圧巻の戴冠劇だった。

8月26日、東京・後楽園ホールで開催の『第91回フェニックスバトル』で、元Kー1スーパーバンタム級王者の武居由樹はボクシング転向5戦目にして、王者ペテ・アポリナル(フィリピン)を5RTKOで下し、東洋太平洋スーパーバンタム級王座のチャンピオンベルトを腰に巻いた。

5戦目でのOPBF戴冠は田中恒成や清水聡の4戦に次ぐ記録で、武居のチーフトレーナーを務める八重樫東さんや井上尚弥と並ぶレコード。Kー1からのボクシング転向組ではヘビー級の藤本京太郎に次ぐ王座獲得となった。

ペテ・アポリナル VS 武居由樹

アポリナルはかつて井上のスパーリングパートナーを務めたこともあるボクサーで、そのパンチ力は井上も評価するほどだった。それでも、武居の相手ではなかった。

1R終盤、武居は右フックをヒットさせ、場内を湧かす。アポリナルはクリンチして凌ぐしかなかった。勝負が動いたのは2R。低く構えることで被弾を防ごうとした王者に対して、武居は右フックと左ストレートで立て続けに2度ダウンを奪ったのだ。

続く3Rは武居にとって未知のラウンドだった。これまでの4戦はいずれも2Rまでに勝負がついているからだが、動きや集中力が落ちる素振りは微塵もない。左ストレートで追撃を試みる。そして4Rになると、武居は右フックで3度目のダウンを奪取した。

それでも立ち上がってきたアポリナルの意識はしっかりしており、ボディフックで反撃の狼煙をあげる。それからアポリナルがロープを背にしての打ち合いに。ラウンド終了のゴングが鳴ると、予想だにしなかった激しい攻防に場内から大きな拍手が湧き起こった。

ペテ・アポリナル VS 武居由樹

このラウンド終了後出されたオープンスコアでは三者とも40-33という大差で武居を支持していた。5Rになっても、武居優勢の流れは変わらない。そして武居の右がヒットしたところで、レフェリーはアポリナルを抱きかかえるようにして試合を止めた。

5R2分7秒、武居のKO勝ちだ。観客席からは「(ストップが)早いだろ」という声も飛んだが、あれ以上続けてもアポリナルに試合の流れをひっくり返す底力があったかどうかは甚だ疑問だ。

ペテ・アポリナル VS 武居由樹

ヒーローインタビューで、武居は「正直、Kー1のベルトを返上してからボクシングで王座になれるか不安でした」と素直な心境を吐露した。「(それでも)応援で背中を押してくれて、みんなで取れたベルトだと思っています」

初体験となった5Rの闘いについては「長いですね。いい経験になりました。(今後)もっと相手が強くなって、試合が12Rになることもあると思うので、もっともっと強くなりたい」。

5戦全勝(5KO)と無敗のOPBF王者は、世界への扉を大きく開けた。

第6試合
スーパーフェザー級8回戦

高畑里望(ドリーム)

岡田誠一(大橋)(勝者)

ふたりの年齢を合わせると83歳というベテラン対決が″格闘技の聖地″後楽園ホールを興奮の坩堝へと誘った。

前半戦では日本スーパーフェザー級16位で43歳の高畑里望(りぼう)がアドバンテージを握る。元日本同級王者で40歳の岡田のプレスに合わせてワンツーや左のボディフックを合わせていく。精度の高い攻撃を仕掛けながらも手数の少ない岡田に対して、高畑は圧倒的な手数で勝負という印象だ。

高畑里望 VS 岡田誠一

2R、その勢いのまま高畑は右アッパーで岡田の体力を削り、タイミングのいい右ストレートで元王者をよろめかせた末にダウンを奪った。この一発で試合の流れは高畑の方に大きく傾く。3Rになっても、高畑は右アッパーやボディフックで追撃を加え、試合の主導権を相手に渡さない。それでも、岡田はタフガイ。少々被弾しても、お構いなくのっしのっしと前に出て反撃のチャンスをうかがう。

4R、岡田は高畑の懐に入り、額と額を付け合わすようなインファイト。ダウンを奪われた焦りからか大振りもあったが、右フックやアッパーで高畑をじわじわと追い込む。負けじと高畑もやり返したので、ラウンド終了のゴングが鳴ると観客席からは大きな拍手が湧き起こった。

高畑里望 VS 岡田誠一

続く5R、高畑が肩でフェイントをかけると、岡田は敏感に反応を示し、ボディフックを浴びせる。そして前のラウンドに続いてのインファイト。お互い一歩も引かぬ打ち合いに場内は大歓声だ。一発の強さで岡田が勝負の流れをたぐり寄せた印象の強いラウンドとなった。

6R、高畑は左のリードパンチを加速させながら盛り返す。ワンツーが有効に映ったが、ここで引いたら元王者の看板が泣く。岡田は打たれても前に詰め、ロープを背にした高畑をボディフックで追い込む。このあたりから高畑は下がる動きが目立っていた。

7R、岡田は痛烈な破裂音を響かせながら左ボディフック。そのまま相手に強いプレスをかけ続けるかと思われたが、高畑も右アッパーで反撃し岡田の下半身を泳がせ、さらに連打で畳みかける。

高畑里望 VS 岡田誠一

いつどちらが倒れてもおかしくないデットヒートの中、最終ラウンドとなった8R、高畑は左ジャブからピッチを上げ攻撃しようとした刹那、岡田の左がクリーンヒット。大の字になった高畑はピクリとも動かなかった。壮絶な打ち合いの中、岡田はこの日のベストバウトともいえるKO勝ちを収めた。

試合後のヒーローインタビューで岡田は「本当に高畑選手が粘り強くして、手数勝負になるだろうと思っていた。(案の定)向こうに手数を持っていかれたので最後一発勝負でいきました」と激闘を振り返った。

37歳の年齢制限は大幅に緩和されたとはいえ、ふたりとも負ければ引退の二文字がちらつく年齢であることに変わりはない。それだけに岡田は「本当に後はなかった。どちらが負けても最後。負けられなかったです」と本音を吐露した。リングサイドからは「これがボクシングだよ!」という興奮した声が聞こえてきた。

第5試合
ライト級6回戦

ジョン・ローレンス・オルドニオ(フィリピン)

今永虎雅(大橋)(勝者)

高校時代は史上初の8冠を達成した“ゴールデンボーイ”今永虎雅(たいが)がプロ2戦目で、ジョン・ローレンス・オルドニオを迎え撃った。

6月29日に組まれたデビュー戦はKO勝ちで幸先良いスタートを切ったばかり。それから2カ月という短いインターバルで初の国際戦というハードルを用意されたが、1Rから今永のスピーディーでキレのある右のリードが冴え渡る試合展開に。

ジョン・ローレンス・オルドニオ VS 今永虎雅

2Rこそバランスを崩しスリップダウンを奪われる場面が2度もあり場内をどよめかせたが、試合の流れは完全に掌握していた。3Rからは左ストレートをヒットさせ、このフィリピン人ボクサーを窮地に追い込む。

続く4Rには幻のKOというべき場面もプロデュースした。。オルドニオをコーナーに詰め顔面に意識を集めた刹那、狙い済ました左ボディアッパー。この一撃で相手は苦悶の表情を浮かべた。このときダウンしたと勘違いした今永は背中を向けニュートラルコーナーに向かおうとしたが、途中で倒れていないことに気づいたというのだ。

とはいえ、オルドニオはすでに虫の息。今永は左ボディアッパーで、「これまでKO負けは一度もない」と豪語するフィリビン人ボクサーを四つんばいの状態で10カウントを聞かせた。ヒーローインタビューを受けた今永は「冷静に試合を進めることが課題だったので、落ち着いて戦えたのは良かったのですが、最後に背中を向けてしまったのは反省点」と頭をかいた。次戦ではどんな高いハードルが用意されるのか。

第4試合
51.9キロ契約6回戦

アッカポン・ヌガムカエオ(タイ)

豊嶋海優(大橋)(勝者)

A級昇格を目指す大橋ジム期待の豊嶋海優が第4試合に登場し、タイから飛来したアッカポン・ヌガムカエオと対戦した。

プロボクシングの経験はこれが2戦目というアッカポンは“ミステリアスキッド”という触れ込みの豊嶋同様今回がプロ2戦目という来日タイ人だったが、アマチュアの名門・東洋大ボクシング部の元主将で元プロボクサーだった父・耕志の意志を継ぐ豊嶋の敵ではなかった。

アッカポン・ヌガムカエオ VS 豊嶋海優

1Rから右ジャブを起点にスピードとキレのある左ボディストレートを繰り出す豊嶋の動きにアッカポンは全く反応できていない。1分過ぎには豊嶋の左に思い切り吹っ飛ばされた。その後も豊嶋の攻撃を浴びるばかり。そしてラウンド終了間際、右フックを被弾したところでレフェリーが試合を止めた。ミステリアスの「ミ」の字だけでも見せてほしかった。デビュー戦は「内容的に満足のいかない判定勝ちだった」と唇を噛んだ 豊嶋だが、今回は豪快な1RKO勝ち。3戦目が俄然楽しみになってきた。

第3試合
スーパーフライ級6回戦

富岡浩介(REBOOT.IBA)(勝者)

KCプラチャンダ(角海老宝石)

U-15全国大会52.5kg優勝などアマ6冠の富岡浩介がPXBに登場し、ネパール出身のケーシー・プラチャンダと拳を交わした。
両者の間には9㎝もの身長差があったが、1Rから富岡はインとアウトを意識した動きでケーシーを攻略する。左のリードを繰り出すも慎重な攻防に終始するネパール人ボクサーに対して、左のストレートやボディフックで圧をかけていく。

富岡浩介 VS KCプラチャンダ

2Rになると、富岡は距離をさらに把握したのか、相手が出たところにボディのフックやストレートをドンピシャリのタイミングでヒットさせる。ラウンド終了間際には痛烈なワンツーでケーシーを初めてグラつかせた。

こうなると、完全に富岡のペース。3Rにはさらにプレスを強め、ケーシーを後退させる。続く4Rこそ攻め疲れたのかこう着する場面もあったが、5Rに右アッパーをスマッシュヒットさせるとケーシーは後退を余儀なくされる。チャンスとばかりの富岡は連打を浴びせ、とどめは左フック一閃。ダメージを重く見たレフェリーはすぐ試合を止めた。

富岡は、これで2試合連続KO勝ち。その直前の5戦目と6戦目の連敗を忘れさせるような復活の狼煙をあげた。

第2試合
ミニマム級4回戦

玉城野里斗(沖縄ワールドリング)(勝者)

磯金龍(大橋)

沖縄在住らしく玉城野里斗(のりと)は名曲『そろそろかりゆし』の♪酒盛りするなら泡盛♪というフレーズに乗って入場してきた。対する磯金龍は元野球少年で、小学校から高校までずっと白球を追いかけていたという。両者ともにサウスポー。1R、磯金は右ジャブで機先を制しながら左ボディで追い打ちをかける。2Rになっても、流れはさほど変わらない。玉城はガードを固めて前に詰めるが、決定打はなし。しかしながらラウンド中盤、連打で磯金をグラつかせ、試合の流れを引っくり返す。

その勢いで玉城は防戦する時間が長くなった磯金に左をクリーンヒットさせ、先制のダウンを奪う。最終となる4R、もうあとがない磯金は左アッパーに活路を見出そうとするが、玉城は終盤右で応戦した。果たしてスコアはダウンを奪った玉城が2-1のスピリット・デシジョンで粘る磯金を振り切り、うれしいプロ初白星をあげた。

玉城野里斗 VS 磯金龍

第6試合
64.5キロ契約4回戦

嘉生心(駿河男児)(勝者)

中山啓(川崎新田)

嘉生は笑顔で入場してきたが、試合開始のゴングが鳴ると動きが固い。セコンドの「左に回って」「頭振って」という指示通りに動きながらチャンスをうかがう。

フィニッシュは唐突に訪れた。中山が左ジャブでリズムを掴もうとすると、若干かがんた体勢から嘉生は右フックをジャストミート。この一撃で中山はキャンバスに大の字になった。1ラウンド1分38秒、電光石火というべきレフェリーストップ勝ちだ。入場時とは裏腹に退場するときの嘉生は自信に満ちた表情を浮かべていた。

嘉生心 VS 中山啓

著者プロフィール

布施 鋼治(ふせ こうじ)
1963年7月25日、札幌市出身。学生時代から執筆をスタート。得意分野は格闘技。Numberでは'90年代半ばからSCORE CARDを連載中。共同通信、北海道新聞でもコラムを執筆中。2021年はレスリングでアジア選手権や世界選手権取材のため、コロナ禍の中海外へ。二度に渡りバブル生活も体験。地上波のワイドショーでコメンテーターを務めた。ボクシングでは、以前頻繁に訪れていたロシアでアマチュアボクシングを取材する機会に恵まれている。2008年7月に上梓した「吉田沙保里 119連勝の方程式」(新潮社)でミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞。【twiter